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テルキナさん


by terukinasan
「狸の神の住む島で」~後編その1より続きます。


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島中を捜した結果、彼らは海辺の岩場に来ていた。
船はないかと探していたようだった。
そして‥‥‥彼らの傍らには、小さなボートが1そう浮かんでいた。


そう。"彼ら"。

中年の男は、いつの間にか少女を連れていた。
少女はひどくやつれ、着ているものもボロボロだった。


「おいお前ぇ!その子誰や!人質のつもりか?」

「うるさい!お前には関係ない!!」

「関係ないわけあるかぁ!お前、人殺したやろ」

「‥‥‥‥‥‥」


そのときだった。





声のした方を振り返ると、例の通路を見つけた女と石原が、そろって少女を指差して口を半開きにしていた。


「あの子‥‥‥こないだこの岩場で見た‥‥‥鳥かなんかを見間違えたと思ったのに‥‥」

「あ、アニィ!ほら!ほら!!女の子おったよぉ!!ここに着いたときに言ったじゃろ!あの子じゃ!!」


あの子‥‥‥元から島にいたのか‥‥‥?
だとすれば、なぜあの男と一緒に?
とにかく分からないことが多すぎる。
こういうときは‥‥‥


「おいお前ぇ!」

「な、なんだ!」

「さっさと真相語らんかい!」

「‥‥‥ハァ?」

「こういうとき、追い詰められた犯人はベラベラと真相を語るもんやろが!」

「そんなわけあるかぁ!」

「‥‥‥ちっ‥」

「‥‥矢部さん、それで本当に話すと思ったんですか‥‥‥?」


最終手段をかわされた?!
さすがに、自慢の虹色の脳細胞でも、これ以上の方法は出てこなかった。。。


「だいたい、密室のあの部屋で、どうやって俺がアイツを殺したって言うんだよ?え?」

「‥‥‥」

「いいじゃねぇか。この島の人間は、みんな狸様の仕業だと思ってる。あの男に狸様の裁きがくだったんだよ!」

「そんなわけあるかアホォ!根拠はないがお前が犯人や!」

「‥‥‥むちゃくちゃじゃないですか‥‥‥」

「やかましい!だったらお前が密室の謎解いて見せぇや!」

「そんな無茶言わないでくださ‥‥‥あれ‥‥‥‥‥?」

「なんや。どないしたんや?」

「‥‥‥矢部さん、あれ、見てください」

「あ?」


例の通路を見つけた女が指を指す方向を見ると、そこにあるのは‥‥‥海に逆さまになって浮かぶカップラーメンの空カップだった。

「あれがどないしたねん?!」

「‥‥‥あれ、だったんですよ」

「お前何を言うとんのや」

「‥‥‥‥‥‥密室の謎、解けました」

「何ぃ?!」「‥‥‥‥う、嘘をつけ!!」


女は、1歩前に出ると、動揺する中年の男を指差して、こう言い放った。


「お前らのやっていることは、すべてまるっとお見通しだ!!」

ビシッ!

「痛ッ」

「何やねんお前は」

「何もたたかなくてもいいじゃないですか!‥‥‥一度言ってみたかったんですよえへへ」

「ええから!早よ先話せや」

「‥‥‥あの、私が見つけた例の通路。あなたは、あそこからあの部屋に侵入した」

「‥‥‥アホかお前は。あの通路は海に沈んでて通れんかったやないか」

「違うんです矢部さん。‥‥‥部屋に、タヌキの置き物が横たわってましたよね?」

「ああ。それがどないしたんや?」

「あれを、かぶったんですよ」

「‥‥‥はぁ?」

「あそこに見えるカップラーメンのカップと同じなんです」

「でも、あれは水に浮いとるやないか」

「あのタヌキの置き物は、相当重いんじゃないですか?」

「そらあれだけの大きさやからな。重いやろ」

「あれが浮かない程度の空気を入れて、中に入る。あの重さがあれば、それでも十分な空気の量を確保できるはずです」

「つまり、その状態で、あの通路を歩いていった、ちゅーことか?」

「ええ。確か、窓の外にタヌキの影を見た、っていう証言があったと思うんですけど」

「ああ、確かにあった。まさかアレも‥‥‥?」

「ええ。おそらく、中に入ってタヌキを移動させるところだったんでしょう」

「でもアニィ、あのタヌキの置き物じゃ、あのオッサン入らんと思うんじゃけどのぉ?」

「なんやと?」

「ええ。確かに、いくら大きいとは言え彼が入るには小さいと思います」

「やっぱりアカンやないか!お前何を‥‥‥」

「誰が犯人はあの人だと言いました?」


女は、中年の男を指差しながら複雑な笑みを浮かべている。


「どういうことや?」

「あの人が犯人じゃなかったら、他にいるのは‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥まさか‥‥‥‥‥‥」


そのときだった。


「待て!」


中年の男が大きな声で2人の会話をさえぎった。


「分かった!全部俺がやった!アイツを殺したのは俺だ!俺がやったんだ!!」


誰も、何も言えなかった。
でも、誰もが彼を見ていなかった。
皆が見ていたのは、少女。
彼の傍らにたたずむ、少女を見ていた。


「なあ!逮捕してくれよ!な?俺がやったって言ってるだろ?!」

「それは、無理なんですよ」

「無理じゃない!俺がやったって!」

「‥‥‥もういいよ」

「千夏?!」

「もういいよ、お父さん」


その言葉に、全員が息を呑んだ。
親娘、だったのか。。。
しかし‥‥‥なぜ?


「でも、なんでや?なんであの男を殺したんや?」

「それは‥‥‥」


そのときだった。


「動かないで!!!」


今まで黙っていた、ひたすらメールをしていた女が‥‥‥銃を構えている?!
その銃口の先には‥‥‥‥‥‥モデル風の男が、逃げようとする格好で固まっていた。


「動かないで」


もう一度、静かに言い含めるように言うと、メールをしていた女は私に向かって何かを見せた。
そこには‥‥‥

「警視庁‥‥‥北川‥‥‥‥警部ぅ?!」

「そうよ矢部刑事。よろしくね」

「は‥‥‥はっ!不肖、矢部!北川警部殿のために全力を尽くす所存でありマスッ!!」


もう私には何が何だかさっぱりわからなかった。
ただ、北川警部殿が来たからには(最初からいたけど)もう大丈夫だ。。


「どういう‥‥‥ことですか?」

「アホぉ、お前警部殿に向かって何言って」

「矢部さんは黙っててください」

「‥‥‥あなたの推理力は大したものよ。密室の謎、お見事だったわ」

「‥‥ありがとうございます。でも、動機が‥‥‥」

「それは私が説明するわ。‥‥‥‥‥‥この島はね、人身売買組織のアジトなのよ」

「なっ?!」


それまで動けずにいたモデル風の男が、初めて動揺した声をあげ体をふらつかせた。


「動かないでって言ってるでしょ。‥‥‥私は、その組織の調査をしていてこの島までやってきたの。‥‥で、あの娘だけど‥‥。その組織の幹部の‥‥‥お気に入りだったの」

「お気に入り‥‥‥?」

「つまり‥‥‥ここに幽閉されて‥‥つまり、その‥‥‥幹部のお相手を‥‥‥」


そこまで言われれば、私にもわかった。
つまり、あの殺された男は人身売買組織の幹部であり、あの娘はアイツの慰み者になっていたということか。。。


「‥‥ああ、そうさ。アイツは人間のクズだった。娘を‥‥‥娘をさらって‥‥‥こんな目に‥‥‥‥‥‥」


中年の男は、涙を流している。


「でも‥‥‥待ってください。あの子が犯人だとしたら、どうやってあの部屋から出たんですか?」

「簡単なことよ。ずっとあの通路の入り口のところに隠れていたの。通路が発見されるように、ちょっとズラしておいてね」

「‥‥‥どういうことですか?」

「通路にみんなが列をなして入ってきたとき、開いた扉の影に隠れておいて、最後尾にいた父親と一緒に逃げ出したのよ」

「‥‥‥なるほどぉ!さすがは警部殿!いやぁ~まったくお見事ですなぁ~!」

「私のときは何も言わなかったクセに‥‥‥」

「あ?なんか言うたか素人?」

「矢部刑事。少し黙って聞いていなさい」

「は‥‥‥はっ!申し訳ありません!」

「ぷぷぷ‥‥」


しかしそうなると、一つ疑問が‥‥‥


「でもそうすると、この男の人は何なんですか?」


例の通路を見つけた女が、モデル風の男を指差しながら問う。
そう、それが疑問だった。


「人身売買組織の幹部の1人よ。殺された男の下についていたみたいね」

「‥‥‥なんで分かった」

「あんまり警察を甘く見ないことね」

「‥‥だから俺はやめようって言ったんだ。ここは隠れ家でよかったのに、ここで直接やろうなんて言い出すから」








私の虹色の脳細胞の活躍で、事件は解決した。
結局、犯人だった娘は逮捕されたが、未成年な上に情状酌量の余地は十分にあり、刑は軽くて済むだろう、とのことだった。



「でも‥‥‥女の子の力であんな殺し方できるんでしょうか?」

「それはな‥‥‥」

「ア‥‥‥アニィ‥‥‥こ、これ‥‥ホント動かんよ‥‥‥‥指も‥‥‥‥動かんよぉ‥‥」


この島にしか生息していない、白い花。
この屋敷の各部屋にも飾られていたのだが。
これが、強力な精力剤であることは分かっていた。
しかし、その副作用については知らなかった。その結果が今の石原だ。


「こいつを使ってヤった後はな、コイツみたいに体に力が入らんようになって、動けへんのや」

「つまり‥‥あの男とあの娘は、殺される前に‥‥‥」

「‥‥‥そういうこっちゃ」


なんともやり切れない事件だった。
しかし、こういった事件を未然に防ぐためにも、私の虹色の脳細胞は活動をやめるわけにはいかないのだ。


「‥‥‥よし。帰るか」

「ええ。帰りましょう」


船に乗る。
少し、寝るとしようか。
目を覚ますころには、もう東京に着いているだろう。
この眠りで、このやるせなさも少しは溶かすことができるだろうか。。。









「アニィ!あ、アニィ!!ワシ忘れちょるおぉ!!ワシ乗ってない‥‥‥アニィ!アニィ、ちょ‥‥待ってよアニィ~~~!!!」

テンプレはこちら。
# by terukinasan | 2005-03-31 20:32
狸の神の住む島で」後編をお届けいたします。


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「ここが『清香島』っちゅうとこじゃのぉアニィ!」

「やかましい!そんなん言われんでもわかっとるわアホ」

「エライ気持ちえぇのぉ!それに、キレイな花まで咲いとるよぉ!」

「おお、なんでもこの島にしか咲いとらんらしい」

「じゃあレアモノじゃの!食べてみてもええかのぉ?!」

「お前は虫かアホ!気ぃ付けや。その花は強力な精力剤になるっちゅー話やからな」

「アニィ?!アニィは博識じゃのぉ!ワシなんて花のことはチューリップくらいしか知らんけぇの!」

「やかましぃ言うとろうが!ったく、ワシらがこの島に来た目的を忘れたんか!」

「でもアニィ、ほら、この花、すげーキレイじゃけぇのぉ!ほら、アニィの髪飾りに、なーんて‥‥‥」

「やかましぃ言うてるのが分からんのかイシハラぁ!!」

ごんっっっ!

「ぁりがとうございます‥‥‥っ!」


‥‥‥まったく、人の髪の毛に触ろうとするとは、本当に失礼極まりない男だ。
いや、別に触られてもどうということはないのですよ。
決してズレたりなどいたしません。
あ、念のために申し上げておきますが、これは地毛ですよ。
決して偽物などではありません。ホンマですよ?嘘ついてないよ?!ホンマやて!
ちょ‥‥‥おまえ疑っとるやろ!ひっぱってみ?ちゃんとひっぱっても取れんようになっとるんやから!
いや取れんようになっとるっちゅーか地毛やから取れるわけないんやって!ホンマや‥‥‥もうええわ!
これやから素人は‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥はっ!?

‥‥‥し、失礼。
申し遅れましたが、私は、警視庁捜査一課の矢部刑事であります。
今回、この『清香島』で起こった殺人事件の捜査を担当することに・・・


「アニィ‥‥‥アニィ!」

「やかましいわボケ!!」

ごすっっっ!

「ぁりがとうございます‥‥‥っ!」

「まったく、なんやねん一体?」

「あの、あれ、あそこ‥‥‥あっ」


と石原が指をさす方を見ると、


「‥‥‥あ?なんもないやないか」

「いや、確かにさっき‥‥‥女の子がおったんじゃよぉ」

「女の子ぉ?」

「一瞬じゃったから、よく分からんけど‥‥‥」

「見間違えやろ」

「いや、絶対おったんじゃ!アニィ!信じてつかさい!」

「やかましぃ!いいから早よ行くぞ!」

「アニィ!ホンマにおったんじゃよ!‥‥‥アニィ!待ってよアニィ~!!」



この怪しげな広島弁をしゃべる男の名は、石原という。
私の部下だ。
この通り、本当にただの馬鹿以外の何者でもない。
それが、なぜ、警視庁きっての切れ者と噂の私の部下についているのか。
まったくもって理解できないのであるが、これも任務。仕方が無い。






屋敷に到着した我々は、先に来ていた鑑識たちから話を聞くことにした。
その話をまとめると、こうだ。


・遺体発見時、部屋は密室だった。
・死因はおそらく溺死。洗面台に顔を押し付けられて殺された模様。
・死後、6時間から8時間、つまり昨日の夜中に殺されたらしい。
・陰部は死後切り取られ、それから花瓶に移動された。
・花瓶の中に入っていたはずの花が、部屋のどこからも見当たらない。
・ベッドには、たぬきの置き物が横たわっていた。
・このたぬきの置き物は、昨日までは通用門の近くにあった。
・深夜に、たぬきが移動する影を見た人間がいる。
・たぬきの置き物には、特に不審な点は見当たらなかった。


「ってたぬきの置き物自体めちゃめちゃ不信やないか!!」

「誰につっこんどるんじゃアニィ?」

「やかましいわアホォ」

「それよりアニィ、ワシ、犯人わかっちゃったよぉ」

「なにぃ?誰や?!」

「この密室の状況で犯行を行えるのは、彼しかいません」

「なんでいきなり標準語?」

「そう‥‥‥犯人は‥‥‥」

「だから誰やねん」




「この‥‥‥‥‥‥タヌキじゃ!!」




「‥‥‥じゃあみなさん、少しお話を」

「あ、アニィ!アニィ!!なんで無視するんじゃ?!」

ゴツっっっ!

「ぁりがとうございます‥‥‥っ!」



まったく、馬鹿な部下を持つと上司が苦労する。
とにかくこの洋館にいた人間から話を聞くと、当日はねるとんパーティーで皆遅くまで起きて話していた者が多く、死亡推定時刻にアリバイのないのは以下の5人だった。

・旅行で来たと言う、背の低くて神経質そうな中年の男。
・やたらと携帯でメールをしている、一人で来たねるとんパーティー参加者の女。
・ねるとんパーティーの常連だという、モデル風の男。
・友人同士でねるとんパーティーに参加しているという、女二人組。


「アニィ、でもまず密室の謎を解かにゃあ‥‥‥」

「わ、わかっとるわ!今考えとるんじゃ!」

「狸様じゃよ」

「うわビックリしたよもう~!!いきなり出てこないでよ~も~!」


ホテルの使用人の老人だ。
何でもこの島では、タヌキが神様としてあがめられているらしい。
あの信楽焼のタヌキの置き物も、ご神体としてこの島のいたるところに奉られているものの一つだという。


「狸様なら、密室だろうが関係ない。狸様が、あの男に裁きを下したのじゃ」


そして、容疑者5人の方を向いて、こう続けた。


「お前も気を付けた方がいい。狸様の裁きは、まだ終わっていない‥‥‥。」


そう言うと、老人はそのまま部屋を出ていった。

「なんじゃろうの?タヌキ様の裁きて?」

「知るかそんなもん。それより密室や密室!」

「おお!アニィ!解けたんか?!密室の謎解けちゃった?!」

「だから今考えとる言うとろうがぁ!」

ごんっっっ!

「ぁりがとうございます‥‥‥っ!」


相変わらずの石原をとりあえず殴りつけ、私は再び密室の謎に思考を集中した。
だた、この虹色の脳細胞と言われた私の頭脳を持ってしても解明には相当の時間がかかりそうだった。
そんな時間があるなら、このリゾートアイランドでキレイな女と二人、ピンク色の時間を過ごしたいというのが本音だった。
ビーチで泳いで、ディナーを食べて、シャワーを浴びて。
『ねぇ、ちょっと疲れちゃった』
『じゃあ、部屋に戻ろうか』
『部屋に戻ったら、もっと疲れるんじゃないか?』
『もう‥‥‥‥‥‥エッチ』
『ふふ』
『でも‥‥‥いいわよ』
なぁんて言うたりしてからもうホンマたまらんのぉぉぉぉ~!!
そして二人は‥‥‥うへへへへへ

そのとき、女二人組のうちの一人が話し掛けてきた。


「あのー‥‥‥」

「うへ‥‥うへへへ‥‥‥はっ!‥‥な、なんや?!」

「いや、あの、えっと」

「なんやねんな。今、大事な考え事しとるんや!」

「密室の謎‥‥‥ですよね?」

「当たり前やないかい。他に何を考える言うんや!」

「あの‥‥‥あそこの壁、ちょっと変じゃありません?」

「あ?どこの‥‥‥ん?」

「ほら、ここ‥‥ちょっと、ズレてませんか?」

「だ、誰の頭がズレとるんや!!ズレてない!ズレてないよぉ!!」

「誰が頭の話をしてるんですか。壁ですよ、壁」

「壁?はっ、そんなもん、この家にガタが来とるだけやろが!警察の捜査に素人が口出さんといてください。」

「でも‥‥‥‥‥‥ほら!これ!」


しゃべりながら壁を調べていた女が、ふいに壁を押し込んだかと思うと、壁は‥‥‥そのまま奥に向かって開いていった。


「なっ?!‥‥‥‥‥‥んなアホな‥‥‥」

「奥に‥‥‥通路が続いてます」

「おお!‥‥っちゅーことは、これで密室は崩れたっちゅーわけや!ワシの虹色の脳細胞のおかげやな」

「どこが‥‥‥」


私の虹色の脳細胞の活躍で、密室の謎は解けたも同然だった。
後ろで女が何かつぶやいた気がしたが、素人の言うことなど気にしてはいられない。


「とにかく!!‥‥中に入ってみましょう」






部屋にあった懐中電灯を手に、私と石原を先頭にして、ほぼ全員がその通路に入っていた。
下手な行動をされるくらいなら、全員で動いた方が得策だと判断したからだ。
そこは、通路と言うよりは洞窟、といった感じで、やけに潮の匂いが強く、さっきから風の音だろうか、ゴォゴォという音が通路中に鳴り響いている。

と、そのとき、通路を発見した女がふいに叫んだ。


「‥‥‥そっか!」

「何がやねん?」

「あ、えと、その‥‥‥私、壁の中の音を聞いたんです」

「壁の中の音ぉ?」

「はい。なんか、こう『ゴゴゴォー』って」

「それとこの通路と何の関係が‥‥‥あ!」

「そうです。きっと、この通路の音なんですよ」

「なるほど」

「しかも、私が聞いたのは、この通路のあった場所とは全然違うところです」

「‥‥‥?どういうことや?」

「つまり、この屋敷にはこういう通路が他にもあるってことですよ」

「なんやとぉ?!」

「多分、この通路がどこに通じているかが分かれば、犯人も分かると思う‥‥‥あれ?」


女が声を上げた理由はすぐに分かった。
通路が下り坂にさしかかったかと思うと、その先が水の中に没しているのだ。
つまり、通路はここで行き止まりだった。


「これ‥‥‥海ですね」

「つまり、この通路は海に通じてるっちゅーわけやな」

「どうしますか?」

「‥‥‥オイ、石原ぁ!」

「なんじゃアニィ?」

「お前潜れ」

「何を言うんじゃアニィ。いくらなんでもそれは‥‥‥」

「やかましい!早よもぐらんかい!」

ゴンっっっ!

「ぁりがとうございます‥‥‥っ!」






「‥‥‥ぶはぁぁぁ!!!アニィ!アニィ!!これ無理!!無理じゃ!!これ出口までたどり着かない!死ぬよぉこれ!!」

「やっぱり‥‥‥」

「『やっぱり』って。死ぬかもしれないと分かってて部下を潜らせたんですか?!」

「アニィ!‥‥あ、あし!足つった!!アニィ!!アニ‥‥ぶくぶく‥‥アニィっ!!死ぬっ‥‥ぶくぶくぶくぶく‥‥‥」


女の非難がましい視線には目もくれず、私は再び虹色の脳細胞に頼ることにした。
今の時刻はほぼ干潮時刻だ。
つまり、これより水位が上がることはあっても下がることはない。
ということは‥‥‥


「これじゃあ行き止まり同然ですね」

「ワシもそれを今言おう思うてたとこや」

「アニ‥‥‥死ぬ‥‥‥ぶくぶくぶく‥‥アニィ!足つった足!足つったよぶくぶく‥‥ア‥‥アニィ!‥‥ぶくぶくぶくぶく‥‥」

「ということは、やっぱり密室は崩れない、ってことに‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥」


どういうことだ‥‥‥?
自慢の虹色の脳細胞も、この事実には驚きを隠せなかった。
ならば、どうやってあの密室で殺人を‥‥‥?


「やっぱり‥‥‥狸様の呪いなんじゃ‥‥‥」

「そんなわけあるかいアホぉ。絶対何かあるはずや。何か‥‥‥」


そうして虹色の脳細胞をフル回転させて考えてながら元の部屋に戻ると、女があることに気付いた。


「あれ?あの中年の男の人は?」

「そういえば‥‥‥‥‥‥まさか?!」

「‥‥‥トイレ行っとるんじゃないかのぉアニィ?」

ガツっっっ!

「ぁりがとうございます‥‥‥っ!」



つまり、こういうことだ。
あの中年の男が、私たちがあの通路に入る隙を見て逃げ出した。
ということは‥‥‥



「あの男が犯人や!間違いない!探せぇ!!」

「でも‥‥‥密室の謎はどうするんですか?」

「そんなもん、アイツ捕まえれば全部分かることや!とにかく探せ!!」








「狸の神のいる島で」~後半その2へ続きます。

テンプレはこちら。
# by terukinasan | 2005-03-31 20:30